陀田 勘助

砂糖のような安逸が
おれの感覚をにぶらしている
鍋底で倦怠だ! 憂鬱だ! と小声でつぶやいている
若い熱情が下駄の歯のようにすりへりそうだ
残火が火消壺で喘いでいる
短気な意志が放心した心臓をつかんでいる
そいつは滓だ
おれの食慾がめしを喰ってる
おれの性慾が女を恋しようとしている
オブロモフ! オブロモフ! オブロモフ!
倦怠をつぶやきながらも安逸は砂糖のように甘い
憂鬱の霧を逃れようともしないでおれはうずくまっている
だがそこを突きぬけようとする意志!
沈頽した牢獄に投げられた
やり場のない憤怒!

おれは白蟻のように噛み切ることはできない
おれは飛行機のように軽快に空を飛ぶことはできない
だが脳髄の中の空間に飛行船を遊歩させることはできる
現在の頁を空白に削りとられた者の前には
明日の希望が堂々と逍遥し始める
のぞき窓からのぞき込む鋭い二つの目も
希望の青空を漂泊するおれの飛行船を
のぞき得ないし、捕らえ得ないし、投獄し得ない。
おれの希望の青空に昇るのは
工場の烟突と凍え飢えた野良にかがやく太陽だ

独房の中にたった独りでいるおれは決して孤立したものでない
全体の中の部分だ!
おれはどこから生れてき、また何を背負っているか!
両親のまた両親とおれの系統をたどってゆくとき、
おれの前には数万人の祖先が立っている
独房の中にいるたった独りのおれの身体は数万人の祖先の血と肉で組織されているのだ
そして、物質の組織――神経系統に花咲いた精神も、それゆえに数万人の――いやもっともっと多数の知識の集積と結論できよう!
たったひとりのおれでさえ永いながいそして複雑な歴史の結果であり将来の原因となり得るのだ
たったひとり独房の中で考えているおれでも
全体の中の部分だ!